J論 by タグマ!

力のある若手がいないがゆえの偏重。そこに日本代表の「危機の予兆」を感じずにはいられない

河治良幸が熟練の士の活躍が目立った11月シリーズを振り返りつつ、未来に思いを馳せる。

アギーレ監督率いる日本代表は9月、10月、そして11月と各2試合の強化試合を行い、計6度の実戦機会を得た。手探り状態だった9月シリーズに始まり、難敵相手に実績の乏しい選手を試してきたアギーレ監督は、11月シリーズを前にしてベテランたちを呼び戻し、チームの再編を図った。1月のアジアカップに向けて、日本代表の戦闘準備は整ったのか。そして、4年後への設計図は見えてきたのだろうか。第4回は、河治良幸が熟練の士の活躍が目立った11月シリーズを振り返りつつ、未来に思いを馳せる。

▼11月シリーズでの課題と不満
 初陣となった9月シリーズは5人の代表初招集を含むフレッシュなメンバーで臨んだア ギーレ監督。10月の2試合を含む4試合で選手を見極め、”本番モード”として勝負にこだわった11月のホンジュラス戦とオーストラリア戦では、遠藤保仁 と今野泰幸という二人のベテランを戻し、さらにケガ明けの内田篤人も戻ってきた。

 またブラジルW杯で惜しくも選から漏れた乾貴士と豊田 陽平も加わったが、初招集はゼロ。そして武藤嘉紀と太田宏介のFC東京コンビをのぞけば、2試合で先発した選手は全てザックジャパンの常連であったのだか ら、2連勝でアジアカップに弾みを付けた状況でも、不満の声が出てくること自体は無理もない。

 オーストラリアはちょうど世代交代期にあ り、中盤でキャプテンマークを巻いたジェディナクやサイドハーフのマッケイをのぞけば、スタメンにはキャリアの浅い選手が揃っていた。しかも、ポステコグ ルー監督が掲げる、中盤でグラウンダーのパスをつなぐスタイルに取り組んでいる最中だ。

 過去数年の中では最もくみしやすいオーストラリ アであり、新体制ながら経験豊富な選手を揃えた日本代表としては勝って当然の相手。むしろ[4-3-3]の中で選手たちが相手の攻撃にうまく対処できな かったこと、ケーヒルを入れてロングボールに切り替えた時間帯を無難に乗り切れず、最後に失点したことは本番に向けた大きな課題となった。

▼合理的な選手選考だが……
  その一方で、アギーレ監督の戦略がアジアカップを最初の大目標とするならば、非常に筋が通った人選ではある。そもそもアギーレ監督は持っている戦力をフル 活用して、自分たちより力が上回るチームを相手に渡り合ってきた監督であり、ベテランだろうと若手だろうと、”その時”に頼れる戦力を重用していく実戦 型。就任会見では「将来性のある選手を呼びたい」と語ってはいるものの、それは将来性を基準に主力を選ぶという意味ではあるまい。

 優勝 を目標とするアジアカップに向けては、さらに堅実な選考をして”戦える23人”を構成する可能性がある。今回の主力に加え、中盤に細貝萌、サイドバックに 長友佑都が復帰すれば、経験値も年齢も、まさにW杯を戦うような陣容になるだろう。一気に若返らせたところからメンバーを固定していったザッケローニ前監 督のアプローチと異なり、その後はパフォーマンスの低下した選手を外し、Jリーグや欧州で目に付いた選手を加え、ロシアを目指す4年間の中でゆるやかに顔 ぶれを変えていくはずだ。

「選手選考には時間がかかります。次に誰かが呼ばれたからといって、その選手がずっと代表チームにいるわけではない。試合を通してプレーを観察し、最終的なチームを作り上げたい」

  アギーレ監督のこの言葉を文字通りに受け取るにしても、「将来性」で呼ぶケースは国内のミニ合宿などがある場合に限られてくるかもしれない。実際のところ 筆者が観る限りにおいて、現在の主力にすぐ取って代わる地力を感じさせる若手はそう多くない。実績のある選手で言えば、宇佐美貴史は実力通り評価されれ ば、アジアカップ後のどこかでチャンスがあるはずだし、ハノーファーで活躍する清武弘嗣も現在の状態を維持できれば、遠からず招集されるだろうが……。

  もちろん特定のチームを継続的に取材、応援している担当記者やファン、サポーターの目線から「○○選手を試すべき」「○○選手は過小評価されている」と いった意見は数多くあることと思う。アギーレ監督が自分の目で選手をチェックしていても、漏れなく見切れているわけではないだろうし、今後の視察で目に留 まる可能性は十分にある。

 しかし、20~23歳ぐらいの若手に限ると、主力への選出はあまり期待できない。Jリーグで中堅・ベテラン選 手顔負けの大きな存在感を見せている若手があまりにも少ないからだ。実際、リオ五輪を目指すU-21代表にしても、現時点でアギーレジャパンに入っている のは右サイドバックの松原健だけだ。

▼余りに寂しい若手の力不足
 もちろん、手倉森誠監督がA代表のコーチを兼ねており、遠藤航、岩波拓也、植田直通、鈴木武蔵、U-19から昇格が見込まれる南野拓実など、Jリーグでそれなりに結果を残してきた選手はリオ五輪の前であっても、どこかでテストされる可能性はあるだろう。

  それにしてもJリーグからの若い選手たちの突き上げがあまりなく、ベテランや中堅選手の壁を破ることができていないのは確かに一面の事実だ。4大会連続で U-20W杯を逃してしまったダメージも日本サッカー全体に蓄積していることは確かだが、「勝つための実戦感覚」を身につけないまま、Jリーグに入ってく る選手が多すぎるようにも思える。

 中学生の時点で誰が見ても分かるようなタレントは、そのほとんどがJユースに流れている。結果、”高 校サッカー出身のエリート”が相対的に減少しているのは、Jユースの選手が絶対的な多数派になっているアンダー代表の構成を見ても明らかだ。現在はJユー スから40人前後、高校からそのままJリーグに入れるのは10人前後で、ほとんどの選手は大学からプロを目指すことになる(もちろん、自ら進んでその道を 目指す選手もいるが)。

 しかし、結局のところA代表にステップアップし、定着していく選手は高校出身の”非エリート”が多数派であり、 Jユース出身にしても武藤のように、大学経由やあまり年代別の代表に引っかからなかった、いわゆる”大外”から出てくる傾向が強まっている。そうした選手 のサクセスストーリーは素晴らしいが、そうした”大外”からの追い込みをひたすら待っていても、先細っていくだけだろう。11月のアギーレジャパンに呼ば れている23歳以下の選手たち、昌子源、森岡亮太、田口泰士、柴崎岳といった選手はいずれも高校サッカー出身。年代別代表に縁の薄かった前3人はもちろ ん、エリートのイメージがある柴崎にしても、U-19や五輪では選外だった選手だ。

 別に出身が高校でもJユースでも構わないのだが、年代別の代表として若いころから国際経験を積んできた若手がもう少し多くA代表に割って入ってほしいし、「A代表で国際経験を積む」ような選手たちばかりでは、自ずと限界もある。

  日本が好成績を狙える理想的な流れは、本田圭佑や香川真司といった現在の主力の大半がコンディションを維持し、そこに数人の若手が食い込んでくるケースだ ろう。それでロシアは乗り切れたとしても、深刻になるのはその後だ。筆者の予測としては、4大会連続で世界を逃した世代が中心になる18年から22年の期間は、一時的な停滞期に入る危険がかなり現実味を帯びている。もちろん、何人かの選手は新たに欧州で成功し、代表を引っ張っていく存在になってくれるはず だが、代表レベルの経験値と選手層はトータルでは低くなっていかざるを得ない状況だ。

▼エリートが育たぬ現状に危機感を
 育成改 革と言っても、高校年代からキンダーまで長い縦割りの中でやるべきプロセスは違ってくるが、大事なのは「試合に勝つことを楽しむメンタル」を早い段階から 育てていくことだと考える。それがなければ、教科書的な戦術やスキルは学べても、勝つためにどうするべきか、周りより成長するためにどうするべきかという 創意工夫、駆け引きが生まれてこないからだ。

 代表に上がってくる選手に共通するのは、上から教えられるだけでなく、自分たちで考え、工 夫し、努力して、数えきれない勝負を乗り越えながら成長した選手だということ。しかし、近年のエリート選手の多くは、ヒナがぬくぬくと大きくなる中で基本 的な飛び方は学んでも、餌の取り方、気象の変化や外敵にどう対処していくのかを知らないまま飛び立っていく姿をイメージしてしまう。もちろんプロの世界は ユースで教えても教えきれないほど、色んなことが待っているのだが、そうした厳しい世界に出て競争に勝ち残っていくための準備が間違った方向に行っていな いか。

 J3にU-22選抜が参戦していることを一つのきっかけとして、18~22歳の選手が試合の経験を積む機会をもっと増やすことが 非常に大事だが、その下のカテゴリーから、普段から勝つために何をするべきかを考え、工夫する環境を築き、将来に待つ戦いに適した訓練の場を作っていく必 要がある。日本サッカー全体として、そうしたことに気付くのが遅すぎたぐらいかもしれないが、時間は戻らない。ロシアに向けてやれることはやりながら、そ の後の東京五輪、22年のW杯、さらにはその先を視野に入れた改革を望みたい。

河治良幸(かわじ・よしゆき)

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。 著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス) など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェッ ク。