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コスパ重視のリアリスト、ハビエル・アギーレは日本に『夢』を見ない

フモフモ編集長がオリジナルな視点で「アギーレ監督」を考察する。

アギーレ監督率いる日本代表は9月、10月、そして11月と各2試合の強化試合を行い、計6度の実戦機会を得た。手探り状態だった9月シリーズに始まり、難敵相手に実績の乏しい選手を試してきたアギーレ監督は、11月シリーズを前にしてベテランたちを呼び戻し、チームの再編を図った。1月のアジアカップに向けて、日本代表の戦闘準備は整ったのか。そして、4年後への設計図は見えてきたのだろうか。第2回はおなじみ、フモフモ編集長がオリジナルな視点で「アギーレ監督」を考察する。

▼リアリストとしての顔は見えた
 アギーレJAPANが発足してから3カ月。少しずつアギーレ監督の人となりや哲学も見え始めてきました。その中で、多くの人が同意できるアギーレ監督の特徴として、「現実主義者」という点が挙げられるでしょう。

 アジアカップを目前に控え、遠藤保仁さん、今野泰幸さんを代表に招集したことについては、「4年後を見据える」という視点からは驚きがありました。フォーメーションも「[4-3-3]を基本とする」と言いつつも、オーストラリア戦ではザッケローニ監督時代を彷彿とさせる遠藤&長谷部をダブルボランチに置く[4-2-3-1]の形も用いました。「今、勝つ」ということだけに注力すれば当然の策ではありますが、そこまで目先の現実に徹することができるのは大したものです。

 試合に臨む姿勢を見ても現実主義者の顔がのぞきます。ディフェンスラインからのロングボールの多用は、守備でのリスクを減らす手堅い策です。フラットな状態で臨んだ初陣の選考では、「高身長」であるとか「左利き」といった確実にメリットのある特長を重視していたように感じられました。

 初陣で岡崎慎司さんにコーナーキックを蹴らせる場面がありましたが、あの場面、自陣に残っていた長友佑都さんと合わせ「出場メンバー中の身長の低い2人」がゴール前から外される格好となっていました。「デカいヤツが競ったほうが確率は高いだろ?」という宇宙の大原則に忠実である様子は、将棋の定跡を丁寧になぞる指し手のように思えたもの。

 そうした人となりから考えるに、監督としての手腕、そしてもたらす結果についてはある程度の信頼感を持っていいように思います。凡ミスはしない。無用なリスクはとらない。手堅く戦う。もしライバルがミスでもしてくれれば、こちらが下手を打たないぶん自然に差がついていく……そんな戦いが期待できるのではないでしょうか。

▼120点は狙わない
 ただ、同時にそれは「120点を取る可能性を捨てて、確実に赤点回避の60点を取る」という傾向も匂わせる人となりです。

 この3カ月でもっとも印象的だったアギーレ監督の振る舞いは、10月のブラジル戦を若手のテストに充てたことです。0-4の大敗後に「我々はこういうゲームをアジアカップの選考に使っています。相手がブラジルでもそうです」と言い切った際には、これがアギーレ流かと目が覚めた気がしたもの。

 アギーレ監督は、ハナから負けると踏んでいた。

 アギーレ監督は、日本のチカラに夢を見ていない。

 ここ数代の監督を振り返っても、アプローチはさまざまですが根底の部分ではそれぞれが日本に夢を見ていました。日本にはチカラがある。強豪に勝つこともできる。世界を驚かせることができる。いつか世界の強豪を乗り越えられるという「夢」を。

 ジーコ氏やザッケローニ氏は日本を愛する者として。オシム氏は現実を見据えつつも、弱き者が強き者を挫くことを支持する立場として。岡田氏も最後はフッと夢から覚めるクチながらも、基本は大きな夢を原動力とするロマンチストとして。

「上手くすればブラジルにだって勝てる」

 そうした想いを抱え、そのためにチームを練り上げていく。だからこその4年間という長期的な展望での強化でもあったわけです。だからこそ、自分たちの得意な部分を研ぎ澄ましたサッカーを追求してきたわけです。そして、チャンスがあればそのチカラを証明したいとギラギラしてきたわけです。

 その発想がアギーレ監督には、どうやらない模様。オーストラリア戦を前に放送されたフジテレビの「アギーレJAPAN応援委員会 ~アジア最大のライバル対決直前SP~」という番組では、「日本のチームが一度でもブラジルに勝ったことがありますか」「日本と同じレベルの国でブラジルに勝った国を4つ挙げられますか?」「サポーターを混乱させてはいけないのです」と語り、逆に「もう少し論理的で客観的になるべきだ」と取材班を諭しました。

「現実的に考えて、ブラジルには勝てない」
「現実的に考えて、ブラジルに勝つ必要もない」
「現実的に考えて、ほかのことを頑張ろう」

 ブラジルに対して日本が「100回に1回勝てる」程度の国だとして、直近の10年あまりはその1回を2回、3回に増やす強化をしてきました。しかし、これからの4年間は「どうせ99回負けるならもっとコスパのいいほかのことしよう」という強化になっていく……。アギーレ監督のコメントはそういう示唆のように思います。強豪から金星を奪う尖ったチームではなく、勝てる相手に確実に勝つ骨太なチームを目指して。

 したがって今後、アギーレ監督のもとでは、日本がブラジルやドイツといった強豪相手に全力で勝ちに行くことは、W杯の決勝トーナメントまでないのでしょう。大本番までは勝つ必要性もありませんし、仮に対戦機会があったとしてもブラジルやドイツに勝つよりも差し迫った現実への対処が優先されるはず。アジア予選へ向けた新戦力探し、アジア予選を見据えての休養、グループ内のもっと弱いチームから確実に勝点を取ること、やることはいくらでもあります。

▼夢なき旅路、あるのは論理と客観
 夢を見ない4年間の旅。もし、2018年までアギーレ監督と過ごすに足る結果が出ていたら、別れは何ともスッキリしないものになるような気がします。結果とともに大きな夢を膨らませる日本の人々と、「いや、ぶっちゃけこんなもんやで」「本大会出られたらOKやと思うで」「そっから先は望んだらアカンで」と論理的・客観的に現実を見据えるアギーレ監督。「もっとやれる」という想いと、「現実的に考えてこんなもん」という想い。4年の時間の中で、そこには大きなギャップが生まれているはずですから。

 アギーレ監督との時間を上手に過ごすコツは、どんなに結果が出ようとも、それ以上に夢を見ないことにあるのではないでしょうか。

 ひとつ結果が出たら、初めて次のステップを考える。

 4年後の大目標など持たない、考えない、気にしない。

 4年後のことなど考えても、アギーレ鬼が笑うだけです。

「予選も勝たずに、本大会の心配かね?」と。

 目先だけ見て、一歩ずつ順番に進みましょう。

 勝手に夢を見て、勝手にガッカリされても、困るでしょうからね。

フモフモ編集長

サッカー、野球、大相撲、バレーボールや格闘技・モータースポーツに至るまで、日本のスポーツ界を広く浅く生温かく見守るぬいぐるみ。試合本編については大した洞察ができないが、「まぎれ込んできた犬」「おかしなことを言い出す解説者」「ポロリこぼれたおっぱい」などについては舌鋒鋭く追及する。  2005年3月にライブドアブログにて「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」を開設し、日々駄文を撒き散らしている。

スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム http://blog.livedoor.jp/vitaminw/