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5クラブ渡り歩いたサポーター。理想郷は水戸にあった(えのきどいちろう)

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5クラブ渡り歩いたサポーター。理想郷は水戸にあった(えのきどいちろう)J論プレミアム

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

5クラブ渡り歩いたサポーター。理想郷は水戸にあった(えのきどいちろう)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]二十段目

▼地域密着の裏にあるスキが気になる

先日、書評の仕事で『「地元チーム」がある幸福 -スポーツと地方分権ー』(橘木俊詔・著、集英社新書)を読んだ。労働経済学の学者さんが書かれた本なのだが、挙げられてる事例が詳細、かつ丁寧でびっくりした。巻頭に「日本のプロスポーツチーム一覧」という地図があるのだが、プロ野球、Jリーグ、Bリーグはもちろん、アジアリーグ・アイスホッケーまで記載されている。いや、もう拝読するとスポーツの中央集権はいけないねー、と思う。地方クラブ=プロビンチャこそ未来だねー、と思う。

思うのだが、僕はヘソ曲がりなので「地域密着」以外の態度についても考えるのだった。いつもそうだ。Jリーグの基本理念のひとつ、「地域密着」を大切に思い、例えばアルビレックス新潟、例えば日光アイスバックスを追い続けているというのに(日光アイスバックスなんか取締役として経営を支えるため、貯金を取り崩したというのに)、あまり金科玉条のように言われるとプイと横を向いてしまう。このへんは大人になっても、ヘリクツ中学生のようだな。

あ、念のために言うが、橘木先生の『「地元チーム」がある幸福』は良い本なのでぜひご覧ください。個別に知ってるつもりでいたことが全体像となって見えてくる。つまり鳥瞰(ちょうかん)するってやつだ。当コラムは橘木先生の著作にあーだこーだ言いたいわけではぜんぜんない。もっとちょんちょこりーんとしたミニサイズの話なのだ。

「非・地域密着」、これを僕はこっそり考え続けてきた。Jリーグ原理主義者のような人(がいれば)から見たら異端者だ。心のなかで思っただけで異端審問だ。悪魔崇拝だ。いや、それは大げさだな。何しろちょんちょこりーんとしたミニサイズだから。

僕は「地域密着」にはスキがあると思っている。わかりやすい例が僕自身だ。僕はプロフィール上は「秋田県出身」ということになっているけれど、実際は両親ともに東京都出身で、秋田は父の転勤先だった。生後1年くらいしか住んでいない。何か東京都出身というより夢がある感じがしたし、大学時代、旅行で訪ねた秋田が大いに気に入ってプロフィールとして採用したのだ。父は金融関係で転勤が多く、その後、恵比寿、高崎、釧路、和歌山、久留米、川崎と北海道から九州までを転々とした。僕は土地にコミットする感覚がない。一体、こんな僕はどこに「地域密着」すればいい?

▼Jリーグは好きなクラブを選ぶことができる

たぶん答えは「好きなところを選べばいい」だと思う。そうなのだ選択の自由なのだ。僕はこれまでの生い立ちを考えるとブラウブリッツ秋田、FC東京か東京ヴェルディ、ザスパクサツ群馬、北海道コンサドーレ札幌、(和歌山はJが今のところないなぁ)、サガン鳥栖がアビスパ福岡、川崎フロンターレのどこかのサポーターになりそうなものだ。そんなにズラッと並んだところから選べる? 選べるのだ。僕の考えでは選べるところがJリーグのユニークなところだ。

特に首都圏と関西圏。Jリーグは発足して、たかだか四半世紀の新しいサッカーリーグだ。ファン、サポーターは自覚的にどこかのチームを応援するようになる。これは「代々続いたボカのサポーター」「グラスゴーではセルティック以外認めない」みたいな人生とは根本的に違うと思う。(実態はともかく)首都圏や関西圏に階級差はない。宗教対立もない。何かのきっかけでどこを応援するか選べるのだ。それも祖父や父から受け継いだものでなく、自分一代で。

僕は「元湘南だったけど川崎サポになった人」「元東京VだったけどFC東京サポになった人」みたいなパターンを何人も知っている。たぶん読者の皆さんのまわりにもおられるだろう。転居みたいな感覚だ。「学生時代、最初に住んだ豪徳寺が気に入って、終生、豪徳寺でした」みたいなパターンがあったら幸福なことだが、実際は皆、首都圏&関西圏で転居を繰り返す。と「地元」が変わる。あるいは「地元」じゃないんだけど、あっちの(クラブの)ほうが魅かれるなぁと心を寄せる。で、最初は浮気でもそのうち真剣交際に至る。

▼5クラブ渡り歩いたサポーターの物語

でも、まぁ2つか、せいぜい3つくらいかなぁと思っていた。そんなに「ひいきチームの転居(?)」をするのも疲れるだろう。好きになるのはエネルギーがいるし、あと下手したら「次節の試合の敵ゴール裏、前いたとこだから知り合いばっかり」みたいなことになりかねない。色の違うユニを着て、昔の知り合いに会うのはいかにもバツが悪いだろう。

だけどね、子どもの頃から転校ばかりで、心の落ち着く場所のなかった僕は「理想郷」のようなクラブがないかなぁと、内心、憧れていたのだ。こう、寅さんみたいなサポって考えられないか? 鹿島でもジェフでもYS横浜でも相模原でも、サポーターになる先々で女子サポを好きになってしまい、そしてフラれて、顔を出しづらくなってしまう。そんな寅さんが流れ流れて行き着く先みたいな。やっと安住の地(色恋抜き?)が見つかりました的なクラブ。5チーム流れ歩きましたけど、ここが「約束の地」です的なクラブ。

「選手はチームを移籍するけど、サポは移籍できない」という名言があって、選手なら5チームくらい移籍する人はいるけど、サポはそういうのあんまり大っぴらにしないでしょ。人聞きが悪い。でも、どこかにきっといるんじゃないかなと思った。出会ったらぜひ話が聞きたい。で、こないだ偶然知り合ったんだよ。ちょっと話して、あぁ、なるほどデリカシーがあって、誠実な人なんだと好感を持った。匿名希望だし、多少設定は変えますね。重要ポイントは変えないですよ。

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