J論 by タグマ!

「昇格請負人」小林伸二が語る監督のリアリズム【2】4クラブを昇格に導いたチーム作りの哲学と極意

有料WEBマガジン『タグマ!』編集部の許可の元、タグマ!に掲載されている有料記事を一部掲載いたします。


「昇格請負人」小林伸二が語る監督のリアリズム【2】4クラブを昇格に導いたチーム作りの哲学と極意J論プレミアム

大分、山形、徳島、清水と過去に4クラブをJ1昇格に導いた昇格請負人・小林伸二。どんなチームも最後まで泥臭く戦い、勝負強い集団に変えてきた、まさにいぶし銀ともいうべき手腕が評価され、今年からギラヴァンツ北九州の監督兼スポーツダイレクターに就任した。
自ら退路を断って北九州の立て直しという重責を引き受けたのは、自身の仕事の集大成にしたいという思いがあった…。
Jリーグ屈指の仕事人にこれまでの監督道を振り返ってもらいながら指導論からマネジメント論、サッカー論までじっくりノンストップで語ってもらった。
ライター・ひぐらしひなつによる、15000字の濃密すぎるインタビューを3回に分けてお届けする。
【1】現場とフロントどちらをまず変えるべきか?

■自分のスタイルに固執しない。守備構築は得意な反面、攻撃は人的リソースを活用する

――それだけいろんな地域のいろんなクラブで指揮を執られて、つねに「小林伸二のサッカー」を続けてこられたイメージです。

でも、自分のスタイルはあるとしても、サッカーそのものが変わってきている中では自分のスタイルを変えていく必要もあるじゃないですか。それは経験そのもので行くわけではなく、いろんなソースをかけながら変化をもたらすという意味では、また新しい経験なんですよ。また新しいスタッフと出会って、自分が出来ないこと、自分が疑問に思っていることを取り入れたりもします。自分がこう思うんだけど、というところでフィジカルコーチが来てくれたり、もっと攻撃的なサッカーをするために、と天野賢一ヘッドコーチが来てくれたり。自分は守備というところは安定して教えられるけど、それをもっと攻撃的にするためには、実はそういう人たちのソースを入れて、組織を作っているんですよ。

――現役時代にご自身はフォワードだったのに、守備構築が得意という。

はい。逆にディフェンダーの人はすごく攻撃的なチームを作って、意外と積極的で、チームが壊れることがありますけど。

僕はフォワードで、守備は嫌だったんだけど、オフト監督に出会って、フォワードの守備の重要性を叩き込まれたんですね。だからこれは、自分が経験したことを「これくらいのことを出来ないとダメだ」と、フォワードの選手に言っているだけです。「僕もやっていた経験があるから、どうってことない。このくらいのことを出来ないと試合で使わないよ」という考えが、経験上あるんです。

今回のフィジカルトレーニングも、自分の現役時代に、これくらいのことをやると変わるということを経験しています。でも押しつけるだけじゃない。そこは自分もやっているから苦しさもわかるし、変化もわかる。というところで、何十年も前の経験値が役立つところは、あるのかな…。

■就任1年目でほとんどのクラブを昇格に導いた秘訣

――長い期間には、ひとつのリーグの中でも急に3バックのチームが増えたり4バックのチームが増えたり。前から行くチームが増えたりと、潮流があります。その中で、どういうふうに戦ってこられたのですか。

僕は就任1年目でほとんど昇格させているんです(大分のみ就任2年目で山形、徳島、清水は就任1年目で昇格)。3、4年率いたチームでの1、2年目がすごく成績がよくて。その中で、J1に上げるためにクリアしなくてはならないこと。この短いリーグで勝つにはどうしたらいいかというと、守備の安定は絶対に必要じゃないですか。

守備をどういうふうに構築するか、どうやって奪うか、どうやって点を取るかはチームそれぞれに少しずつ違っていると思います。僕は徳島のときから3バックも4バックもやっているけど、3バックでワイドの選手を高く上げるのは、フィジカルじゃなくてボールを回しつつ上げるとか。要は守っておいて攻撃するように、時間をかけることも必要な時代が来ていると思っていたんですね。

徳島はJ1に上がっても通用しなかったんだけど、やっぱり守るだけでは無理で、少しでも攻撃が出来るようにならなくちゃいけない。それがなかなか難しくて。清水に行ったときも、守備はさせた上で、攻撃的なチームに変えていくのがいいなと。清水はそうでしたね。

それと合わせて、いまの育成年代の選手たちが、ガチガチの守備のチームではなく、ボールを持つサッカーに変わってきている。であれば、ボールを奪われずに回せるようなポジションを取れ、切り替えの早いチームを作る必要があると考えていたんです。落として守って守備を安定させるよりも、もっと前で何かが出来ないかと。そちらのほうが、いまの育成年代の選手たちにとっては多分、機能するのではないかなというのがあって、それをどこかでやる機会がないかと思っていました。自分の挑戦です。

そういうときに、ここの地域の持っている、戦い続けるとか、90分とか、去年、というのがつながったり。清水の監督をしていたときに怪我人が多くて、フィジカルが今後どういうふうになっていくのかと考えたんですよ。コンディションというところからもう一回、フィジカルメニューを選手のために作ってやらないと、怪我人が多い。リーグ戦で強度の高いものを求めると、やっぱり怪我人が多くなるから、どうやって選手のフィジカルを上げていけばいいんだろうと。そういうふうに考えを巡らせたことが、今回やっているフィジカルコーチによるトレーニングになるわけですね。

以前、一緒にやったヘッドコーチと、もっと高い位置でボールを運んだり素早く切り替えたりできないかと考えていたことがあって、そういうときにいまの天野ヘッドコーチと出会ったりしてるんですよね。

いまは高い位置からプレッシャーをかけて奪い、主導権を自分たちで持つサッカーを目指しています。すごく不安なんですけど、それをやっている。そういうふうに、自分の中で自分のサッカーは変わってはいるんです。守備をどうやって安定させるかとか、どうやって奪うかという部分だったり、奪った後にどうやって自分たちで主導権を握るかというところが、少しずつ変わってきていると思います。いまのユース年代の選手たちはそれが上手いんですよ。それを利用したほうがいいと、僕は思ってるんですよね。

――いまの若い選手たちがそういうのを上手くなっているのは、何が要因でしょうか。

それは、3歳、4歳からボールを蹴っている人が多くて、ゴールデンエイジ、プレ・ゴールデンエイジにしてしっかりボールを足で扱っている人が多いということでしょう。いちばん神経系が発達するときに、いちばん不器用な足を使ってやっているという人の、底辺が広いということですよね。底辺を広くすることによって、トップアスリートの人数も増える。そういうことじゃないですかね。それがすごく、サッカーにおける変化をもたらしていると思います。ですから、どこにでもいい選手がいるということですね。だからと言って、そのいい選手がどういう選手になってどういう職業に就くか、プロフェッショナルの選手になるかはまたわからないですけど、いい選手はいっぱいいるということだと思います。

――時代の流れの中で選ぶプレースタイルがあるということですか。

相手を見て判断していくと、前から奪いに行くとか、セットした上である程度のところから限定してボールを奪ってカウンターにするとかが多かったんですけど、今度はいかにボールを支配していくかというふうに、今年の北九州は変わってきています。それは、ファンに喜んでもらいたいし、たとえ負けても積極的だなと思ってもらいたいから。動けるようになって自分たちのアクションサッカーをしたいという部分を、少しずつ表現できていると思います。勝っているからしっかり守って勝ち逃げしようということは、していないです。積極的に主導権を握って最後までやる。あとは、どういうふうに攻撃のリズムを変えるかというところになってきます。

■J1、J2、J3で監督を経験して感じるレベルの違い

――Jリーグの全カテゴリーで監督経験をお持ちですが、それぞれのカテゴリーの差異を感じたことはありますか。

そうですね…J1は上手いだけじゃなくて、ハイパワーが出ますよね。やっぱりスピードだと思います。スピードの中で考えられる、よく走れる、ボールが収まる。スピードにすべてが付くと思うんですよね。カテゴリーが下がれば、そのランクが下がっていくんじゃないですか。J3の場合は、スピードが緩かったら止まるし周りが見える。ちょっと速くプレッシャーをかけられると、ちゃんと止められないし周りが見えない。そこがカテゴリーの差じゃないですかね。

続きはコチラ
(※続きは「サッカーパック」に登録すると読むことができます。)

*****
J論プレミアム」のオススメ記事

「昇格請負人」小林伸二が語る監督のリアリズム【1】現場とフロントどちらをまず変えるべきか?

違った視点な川崎vsチェルシー、広島のFW状況、ポイントを押さえた山形レビュー『今週のひぐらしひなつ おすすめ3本』(7/23~)