J論 by タグマ!

現在2位。FC町田ゼルビアがJ2で勝てている理由

真摯に対戦相手と向き合うサッカーで着実に勝ち点を積み重ねている。

▼現在4連勝中
 第6節を終えたJ2リーグに”新風”が吹き込んでいる。無敗で首位を走る”桜のタレント集団”・セレッソ大阪に次いで、リーグ2位に付けるチームは、昨季のJ2・J3入れ替え戦を勝ち抜いたFC町田ゼルビアである。

 J3からの昇格組である町田は、現在4勝1分1敗。目下4連勝中で、その4連勝中の内訳は、最初の2連勝がレノファ山口とツエーゲン金沢から挙げた勝利で、直近の2連勝は東京ヴェルディやコンサドーレ札幌といったJ1経験クラブから白星を獲得している。4年前にJ2からの陥落を経験しているクラブにとって、J2残留争いのライバルと目されている”J3卒業生”の山口と金沢から挙げた勝利は、勝ち点6の価値があると言っても過言ではない。J1昇格を現実的な目標に見据えている東京Vと札幌から奪った勝利は、町田の実力が決してフロックではないことを証明していると言ってもいいだろう。

 なぜ町田はリーグ序盤の”スタートダッシュ”に成功したのか。今回のコラムでは町田がJ2で勝てている理由について触れたい。

▼稲本が認める運動量
 「これからはもっと研究されてくる。その前にできるだけ勝ち点を稼ぎたい」。大宮アルディージャや大分トリニータでJ1も経験している地元・町田市出身選手である土岐田洸平がそう話すように、対戦相手がまだ十分に町田のウィークポイントを把握できていないことも4連勝の要因の一つだ。ただし、それ以上に町田の原動力は、現在6試合3失点の守備力にある。ここまで複数失点を喫した試合はなく、1試合平均失点はちょうど0.5点。昨季はJ3リーグ最少失点とJ3で揉まれた”堅守”は、一つカテゴリーが上がったJ2でも健在である。

 最終ラインは高いライン設定を維持し、選手同士の距離を詰めながら、コンパクトな陣形を構築。相手がポゼッションをしている際にはコンパクトな3ラインで守備ブロックを築き、ボールサイドに人数をかけてボールを奪う守備戦術がチームの基軸となっている。局面では激しい球際の攻防からボールを奪い取り、素早い攻守の切り替えと味方を追い越す動きでショートカウンターをしかける。こうした元日本代表左SBの相馬直樹監督が標榜するスタイルは、オーソドックスなフレーズが並んでいるが、”キワ”の攻防にこだわり、ディテールの追求が勝利につながることを信じて、真摯に対戦相手と向き合うサッカーで着実に勝ち点を積み重ねている。

 直近の試合である第6節の札幌戦後、元日本代表MF稲本潤一が町田の印象について、次のように話している。

 「町田は全員がハードーワークをしてくるチームであることは事前に分かっていた。球際の勝負やボールの寄せの速さは、(自分が出場した)前半に関しては完全に負けていた。危険なシュートを打たれたことはそんなになかったと思うけど、球際の強さを90分間徹底してきたことが相手の勝因だったと思う」

 ”W杯スコアラー”である稲本も認めるように、町田はJ2屈指の”ハードワーク集団”と言っていい。さらに第5節で町田と対戦した東京Vの高木大輔は、「町田はうまくスペースを消してきて、チームとしてまとまった守備をしてきた。そんなにスキがなく、チャレンジ&カバーをして、ボールが動くと全体がスライドする形で素晴らしい守備をしてくる」と町田の守備力に舌を巻いた。主導権を握れない時間帯が続いても、町田は「粘り強く戦っていればそんなに簡単には点を取られない」(鈴木崇文)という守備力をベースに、苦しい時間帯を耐え抜き、90分の中で必ず訪れる自分たちの時間帯に点を取り切ることでここまで勝ち星を手繰り寄せてきた。

▼成長曲線は続く
 選手たちが過去6戦の中で「最も骨太な相手だった」(リ・ハンジェ)という札幌を相手にした前節は、相手のシュート数を1本に封じた前半に鈴木崇文の直接FKという”飛び道具”で先制。1点リードで迎えた後半は、相手の徹底した裏狙いにより、陣形を前後に広げられ、札幌に空いたスペースのバイタルエリアを突かれる形で苦戦を強いられたが、守護神・高原寿康のファインセーブで劣勢をしのぎ、終了間際の90分にはカウンターから追加点を奪ってトドメを刺した。試合を戦うたびに”相馬ゼルビア”は少しずつ成長曲線を描いている。

 振り返れば昨季、J3からの昇格組だった金沢は一時リーグ首位に立ち、上位をキープするなどJ2リーグ序盤を席巻していた。シーズン開幕前、最後の対外試合となった2月の大宮アルディージャとのトレーニングマッチを終えたあと、敵将の渋谷洋樹監督は、昨季の金沢の躍進を引き合いに出し、次のように話している。

 「町田はチームのやることが徹底されているし、最後まで粘り強く戦っていた印象でそれは見事だった。なかなか厄介な相手だったし、粘り強く、最後の局面で体を張ってくるチーム。まるで金沢さんのようだった。昨季の金沢さんになるような可能性もあるのではないか」

 J1クラブの指揮官も認めたチーム力で上位に位置する町田だが、決して現状に奢っている様子はない。今後も4年ぶりのJ2という戦場で地に足を着けた戦いを続けていく所存だ。チームを率いて3年目を迎えている指揮官は、目の前の一戦に集中する”一戦必勝”のスタンスでチームをマネジメントし、「22番目のチーム」(相馬監督)として、”チャレンジャー”の姿勢を決して崩さない。あくまでも謙虚に、そして愚直にーー。今季のチーム目標である”J2定着”に向けて、”相馬ゼルビア”の挑戦は続く。


郡司聡

茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』http://www.targma.jp/machida/)を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。